喫煙 は インプラント の リスク ?論文を踏まえた見解と考察
タグ:インプラント周囲炎, ザイゴマインプラント, リスクインディケーター, リスクファクター, 喫煙, 歯周組織再生療法
皆様は 喫煙 と聞くとどのような リスク をイメージされますか?恐らく、体に悪いとか、肺がんになる可能性があるというようなリスクをイメージすることが多いかと思います。それでは、口の中や歯に対してはというと、虫歯が悪化するとか歯周病を悪化させるというような話は聞いた事があるかもしれません。しかし、 インプラント 治療と喫煙の関連性という所までは話を聞かれた事がないかもしれません。中には、何となくリスクになりそうという話を聞かれた事がある方でも情報が漠然としていて、実際はどうなの?と思われている方かもいるかもしれません。今回は実際に喫煙はリスクになり得るのか、また、どのような影響が出るのか、最新の論文や報告に基づき、私個人の見解や考察も加えてご紹介していこうと思います。
喫煙はインプラント周囲炎のリスクファクターではなく・・
まず、本邦の2023年度の論文で喫煙がインプラント周囲炎のリスクファクターになるのかという内容の論文を紹介しますで。それによると、「喫煙は非喫煙と比べて歯周炎の重症化に関与するリスク因子となり得ますが、インプラント周囲炎のリスク因子が喫煙であると断定する所までは至っていない」との報告がありました。その理由としては、喫煙の基準が研究ごとに異なっており、喫煙の状態を患者の問診のみに依存していたことが理由にあるようです。現在の考え方としては、喫煙はインプラント周囲炎のリスクファクターではなく、リスクインディケーターという考え方が主流のようです。つまり、喫煙はインプラント周囲炎と関連はあるが、リスク因子という決定的な証拠はないという事でした( 蓮池 聡 ,今村健太郎 ,他:インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと 今後の課題 . 日歯周誌 65(3):81-92 2023)。
海外の論文も確認してみました。こちらはイラクの口腔外科医の先生が2024年の3月に出した論文になります。 インプラント治療を受けられた成人患者さんを対象にインプラント周囲プロービング(専用の歯周病検査器具を用いて、インプラントと周囲粘膜の関係性を確認する検査)に十分なアクセスがあることを条件に複数の歯周病検査を行ったそうです。また、患者さんに行った問診では、喫煙状況(非喫煙者、元喫煙者、および現喫煙者等)、毎日のタバコの消費量、喫煙期間(年数)、喫煙開始時の年齢、禁煙期間等を調査しています。検査を受けられた 合計 117 人 (女性 55 人、男性 62 人) は平均年齢が64.2 歳で、合計450 本ものインプラントで修復されており、患者さんは 1 人あたり平均 4.6 本のインプラントの埋入が行われ、埋入後は平均 8 年使用されたとの事でした。喫煙者に関しましては、 56 人が非喫煙者、42 人が元喫煙者、19 人が現喫煙者でした 。1 日の平均タバコ消費本数は 15.7 本でした。結果として非喫煙者と比較して 喫煙歴のある方はインプラント周囲炎のリスクが有意に高かったとの事でした。 禁煙後21年以上経過した元喫煙者の方々は、21年以内に禁煙した元喫煙者の方々よりインプラント周囲疾患のリスクが有意に低かったとの事でした(Omer Waleed Majid : Dose- and time-dependent association of smoking and its cessation with risk of peri-implant diseases . Evidence-based dentistry : 15-16 2024)。
上記を踏まえた上での当院の見解
当院は、ALL ON 4 ZYGOMA CLINIC Ⓡとして数多くのオールオン4治療やザイゴマインプラント治療に携わってきました。直近に当院で行われた治療を統計化した文献があります。当院にて骨移植を回避し上顎骨の高度顎堤吸収(大規模に上顎の骨が溶ける事)を有した285名の患者さんに対し、通常のインプラントもしくはザイゴマインプラントによるAll-on-4治療で治療に臨んだ統計に関するものです。術前に問診を行い、術後の経過を観察していきます。経過観察期間中に発生した有害事象を記録し、各患者の問診時に得た情報と照らし合わせ、各有害事象と基礎疾患との関連などを調査していきました。
その治療結果からはインプラント周囲炎を発症した症例自体が少なく、その統計結果からも喫煙自体が明らかなリスクと断定する事は出来ませんでした。しかし、インプラント周囲炎を発症した方ごく少数のうちの過半数は喫煙者であった事実も分かりました。またザイゴマインプラントが必要な程の上顎骨吸収を認めた患者さんは喫煙者の患者さんが過半数であった事、手術翌日の痛みの訴えが強かった方は喫煙者が過半数であった事から、喫煙が口腔内に悪影響を及ぼす何らかのリスクインディケーターとなっている事が示唆されました。
禁煙は果たして効果はあるのか
それでは、喫煙をされていた方が禁煙をするとどのような効果があるのでしょうか。喫煙者の歯周治療に臨む際に、禁煙する事で相対的歯肉血流率は禁煙3週間後までに優位に上昇し回復する模様です。また、歯肉溝滲出液(歯肉から滲出される液体の事で、 免疫担当細胞や各種歯周病原細菌が検出でき、 歯周病の進行の指標としている)の量は禁煙2週間後には非喫煙者レベルまで回復するという報告もあります。最近の歯周治療の報告によると、初診時の時点で歯周基本治療の一環で禁煙を行う事で歯周組織再生療法の良い影響が出る事が分かったようです。禁煙が歯周再生療法のいい結果につなげるかは今後の更なる研究が必要との事でした(小川 充知:禁煙指導後に歯周組織再生療法を行った一症例. 非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 Vol.40 No.1 : 106-109 2022)。
上記文献による報告では、まだはっきりと禁煙が歯周組織再生療法にいい影響を与えるまでは断定はできないが、2週間、3週間と禁煙することで喫煙者でも非喫煙者に近づくような体の変化はある模様なので、少なくとも禁煙に取り組む意味があることは示唆されます。
こちらの報告を踏まえて
歯科治療は部分的に実施していくことが多いですが、同時に歯周病は口腔内全体に広がっていることが多いです。したがって、歯周治療を行いながら、部分的な虫歯治療を実施します。当院におけるインプラント治療は歯周組織を再生させる治療と併用する事もあります。粘膜や骨の再生が速やかに行われる事はインプラントの成功につながると考えています。禁煙する事による歯周組織再生療法の効果が上がるのなら、禁煙を歯周基本治療の一環として患者さんに勧める価値はあるのかもしれません。当院では術後患者さんに禁煙をお願いしているのですが、術後の患者さんの経過が良い事はこういった事が関係していると思われます。
アメリカでは口腔外科医や補綴歯科医だけでなく、歯周病専門医でもデンタルインプラント治療を実施していると言われています。それだけ歯周組織とインプラントの関連性というものが高いという事がいえます。歯周病の治療は歯科医院側だけでなく患者さん側の協力が必須の治療です。歯磨きや生活習慣、こういったものを改善するという事はとても大変な事ですが、輝かしい生活を取り戻す為に、禁煙を含めて患者さんの協力が必要だと考えています。
まとめ 喫煙はリスクファクターとまでは言えませんが・・
喫煙 は インプラント 治療のリスクファクターとまで断定はできないですが、何かしらの有害事象を及ぼす関連性はあるようです。また、歯周病と喫煙においては関連性が確認されており、禁煙する事で歯周組織再生療法等の成功率が上昇することが見込まれています。したがって、歯科治療や手術を受けられる予定がある方は禁煙をする事を推奨いたします。
歯科医師は一般的に非喫煙者であることが多いです。それに対し、患者さんの中には喫煙する事を人生の楽しみの一つとしておられる方、喫煙ルームでの喫煙者間の会話を楽しまれていいる方も大勢いらっしゃいます。喫煙される方々の生きがいや楽しみの一つになっているのかもしれません。
しかし、歯科治療や手術となると話が変わってきます。喫煙をしていると歯科処置の成功率も下がる可能性がありますし、歯科処置がうまくいっても予後が不良となったり、痛みに繋がる可能性もあります。歯科治療は施術する歯科医師だけでなく、施術される患者さんの治癒力などが求められることもあるのです。その治癒力を向上させるためには同じ口腔内にある歯周組織のコンディションを整えておく必要がありますが、歯科医師だけでそのコンディションを整える事はできません。衛生士の専門口腔ケアや患者さん自身のブラッシング、さらには禁煙が必要となります。患者さん、歯科医院のスタッフとも協力してお口の中の病気に立ち向かっていくことが必要なのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。今回は「喫煙 は インプラント の リスク ?論文を踏まえた見解と考察」をテーマに記事を書きました。歯の深刻な悩みをお持ちの方に向けて記事を書いていますが、疑問は解決しましたでしょうか? 皆様のインプラントに関する不安を少しでも軽減できる情報を提供できればと考えています。
本ブログは「双方向」であることをモットーとしています。本ブログ読者からのインプラント、All-on-4、ザイゴマインプラントに関するフィードバックやご質問に、できる限り筆者が記事を書いたり、個別返答でお悩みにお答えすることができます。
※本ブログはインプラント・ザイゴマインプラント専門のブログとなりますのでご了承ください。
著者紹介
大多和 徳人
おおたわ歯科医院
オールオン4 ザイゴマクリニック
院長 歯学博士
専門分野
重度歯周病 / ザイゴマインプラント
学歴・職歴
- 九州大学歯学部歯学科卒業
- 九州大学大学院顔面口腔外科卒
- 九州大学病院デンタルマキシロフェイシャルセンター勤務
- 大分岡病院顎顔面外科マキシロフェイシャルユニット勤務
- ALLON4 ZYGOMA CLINIC開設
所属学会
- 日本口腔外科学会所属 認定医
- 顎顔面インプラント学会所属
- ICOI(国際インプラント学会)所属 認定医
- All-on-4 ザイゴマインプラント協会 理事
- Study Group of the Edentulous Solutions 理事
- ZAGA CENTERS所属 認定専門医
専門
- オールオンフォーザイゴマインプラント
- 九州大学総長賞受賞
(テーマ: 3Dプリンターによる三次元骨再生) - 博士号取得
(テーマ: カスタムメードチタンメッシュでの骨再生) - 国際特許取得
(主題: All-on-4 のための三次元スキャンボディの開発)
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