オールオン4 当院における設計の こだわり
オールオン4 1日で歯が入る素晴らしい治療です。歯がない人、歯がボロボロな人でも関係なく、手術当日に歯を入れる事が可能となります。しかし、歯がない患者さんの口腔内に、全ての歯を入れるという事は実はとても難しい事です。特に設計の こだわり はとても重要です。
口腔内というのは縦・横・高さのある3次元の世界です。例えば、オールオン4の手術の時に仮歯を設置しますが、歯の正中の前歯の位置が0.5m左にずれているもののしっかりと咬める状態であったとします。すると咬み合わせを変えずに他の歯も含めてバランスを整える必要があります。
そうなると複数の歯の左右の位置関係だけでなく、複数の歯の上下的位置関係、複数の歯の前後的位置関係、顔とのバランス、笑顔の時の歯の位置関係、横顔の見え方、こういった事も意識しなければなりません。また、埋入したインプラントとの位置関係も当然のことながら意識しなくてはなりません。それだけでなく、咬める構造、壊れにくい形態でないといけません。ですので、たった0.5mm正中を動かすという作業であったとしても、とても大掛かりな作業になるのです。今回は当院のオールオン4における仮歯から本歯完成までの設計の こだわり について記載してみました。
手術のインプラント埋入位置のこだわり
インプラントの埋入位置に関しては、手術前にCTとコンピューターを用いてインプラントのシミュレーションを行って決定します。患者さんによって骨の状態、骨同士の位置関係、顎の大きさ、顔の作り、歯と歯茎の状態・・・etc、こういったものが大きく違ってきます。
基本的にオールオン4の場合、上下の歯を全て抜歯後にインプラントを上下の2番と5番の位置に埋入し、レントゲンで見ても左右対称の美しいアングルにしていきます。2番は垂直埋入、5番は傾斜埋入をしていきますが、骨の状態によっては難しい選択を迫られる事があります。しかし、基本的にはオールオン4の形として出来る限り理想のポジションを目指していきます。そうしなければ、その後の処置が複雑になってしまうからです。ですので、そういう場合は限られたスペースや条件に対応する手術計画が必要になってきます。
上顎のオールオン4を計画する場合、上顎骨の状況によってノーマルインプラントでアプローチする場合もあれば、ザイゴマインプラントしか埋入出来ない場合もあります。また、インプラントはただ埋入するだけでなく、仮歯を含めた歯が入る事を強く意識しておかなければなりません。それはどういう事かというと、まず人の手で歯の取り外しを行わないといけない為、歯のネジ穴(アクセスホール)の位置がシンプルな位置で着脱しやすい位置にある事。アクセスホールが審美的に影響を与えない位置にある事(笑顔の時にネジ穴が見えない事)、割れづらくする為に上顎と下顎のスペースをしっかりと保って歯の厚みを出すこと、こういった事を考えて設計しなければなりません。こういった事がその後の処置に大きく影響する為、シミュレーションはとても難しく大変なのです。
また、シミュレーション通りに手術を進めようとしても、実際の状態とは差異があってうまくいかない事もあります。CTの画像では骨の厚みや高さはわかりますが、骨密度はある程度しか把握できないため、実際に上顎の骨をさわるとパリパリともろく崩れるような方もいらっしゃいます。この場合は、そのシチュエーションにあったプランを立て直さなければなりません。当然、設計も大きく変わってきます。
仮歯でのこだわり
仮歯も様々なこだわりをもって製作致します。当院では、事前に術前診察で型取りをした情報、患者さんの性別、身長、写真などをもとに歯があった場合を想定した仮歯を製作していきます。患者さんが男性で体格もがっしりしていれば、自ずとやや大きめの仮歯となるということです。
当院の技工士の手作業で製作する仮歯は本歯とまでは言わないものの、審美性にもこだわったデザインのものとなります。手術前に上顎の仮歯と下顎の仮歯は噛みあうように製作していますが、あくまで本当の対合関係は術中に取得する形となります。上顎の仮歯の位置を決めた後に、そのポジションに合うように下顎の仮歯の位置を決定するということです。なので、仮歯の位置決めの際にインプラントの邪魔にならないような位置に歯を排列します。要は初期の仮歯はアクセスホールに相当する位置がくりぬかれたような形態の仮歯となるわけです。
ノーマルインプラントにおける本歯の型取りにおいて、オープントレーによるピックアップ印象と呼ばれるインプラントの部分がくりぬかれた歯型を使って型取りをしていきますが、それに近い形となります。また術中に仮歯を入れていくのですが、最初に入れる歯は上顎からとなります。これには、いくつかの理由があります。上顎が動かない事、正中の位置が分かりやすい事、噛み合わせの基準となる事等が挙げられます。余談となりますが、上下の総入れ歯を製作する時も基本的には上の入れ歯を基準に下の入れ歯を作成していきます。これは同じ様な理由があるからです。
パソコンデータ上でのこだわり
術前診察から情報収集は行います。オールオン4の術後も同様に情報収集を行い、顔写真や口の中の写真、型取り、顎の前後関係、笑顔の状態による歯の位置関係、目の位置、唇の位置等を参考に歯の形態を前もって考えます。
取得した歯型をパソコンデータに転送します。その情報をもとに直近の顔写真と重ね合わせをして、オーダーメイドの歯を作っていきます。多数のデータから患者さんの希望の形態のものをチョイスして顔写真に重ね合わせを行いますので、患者さんのイメージに近い歯の形態のご提案が可能となります。また仮歯の状態を参考に患者さんの要望を取り入れた設計を行いますので、仮歯では実現出来なかったような設計も実現可能となります。例えば、仮歯ではほんの少し歯の正中がずれていた、上あごの歯の位置が少し前に出ていた、笑うと少し歯茎が見えた、歯が少し大きすぎる等、こういった要望に応じた設計が可能になってきます。
また、最後方インプラントより後方の歯はどうしても脆弱になりやすい事、また頬を咬みやすい事から若干小さめの設計にあえて致します。頬を咬みやすいとどうしてもストレスとなってしまいます。このような事も考慮してコンピューターで設計していくのがこだわりとなります。
プロトタイプ(本歯のデザインを3Dプリンターで再現したもの)のこだわり
パソコン上でデザインした歯のデータがあれば、本歯を作ることは可能です。しかし、そのままの形態で歯を入れても、「イメージと違う」となってしまう可能性もあります。
洋服を購入する時を思い出してほしいのですが、自分ではMサイズでいいと思っていても、店員から「うちのはMサイズがLサイズくらいなので試着してみませんか?」みたいなことを言われた経験がある方もいると思います。やはり試着してみると、思っていたのと全然違った、サイズ違いにならなくてよかったと。
このような感じで、オールオン4の歯のセットも注意が必要です。洋服と同じように全体的に劇的に変化してしまうのが一番の原因です。パソコン上でデザインされたものはセット前に3Dプリンターを使ってプロトタイプ(形状のみ本歯と同じもの)を製作します。製作されたプロトタイプは口腔内の仮歯を外してセットします。この一連の工程をプロトタイプの試適といいます。軽く咬んだ感じでお口の中に入れて、上顎と下顎の歯の位置関係や接触関係、発音、笑顔の時の歯の見え方、歯の形状や大きさ、歯の正中の位置関係、唇の豊隆、皺の出方等、様々なものを見ていきます。
実際にプロトタイプを装着してみないと分からないことは多くあります。パソコン上でデザインしてしまえば、本歯を製作する事は実質可能ですが、いきなりセットしてしまうと、うまくいかない可能性がおおいにあります。入れ歯も試適の工程があり、この試適を行う事は重要な工程となります。また、試適したものは本歯装着前の最終的な確認作業なのです。
本歯のこだわり
試適したプロトタイプは本歯のステップに行く前に改善を行う事ができる最後のチャンスです。プロトタイプをこだわったほうが、最終的に入る本歯が患者さんの満足のいくものにはなる可能性が向上します。プロトタイプの試適を重ねた結果はデータとしてコンピューターに蓄積されていきます。患者さんの要望を頂いたことをコンピューター上で上書きをしていく事でよりオーダーメイドの素晴らしい歯に生まれ変わります。特に当院では、側貌などの顔貌にはこだわりがあり、美しく若くみられるような形態や設計を考えています。その為には、E-line(鼻から唇、オトガイにかけた1直線)やリップサポート(上唇のはり)といったものを大切にします。また、笑顔の際の歯の見え方、唇との関係性、こうしたものも見ていきます。
場合によっては、本歯の歯茎に豊隆を付与したり、歯の大きさを調整して唇の出方を調整します。これは、仮歯やプロトタイプで得た情報をもとに行う当院ならではの設計なのです。プロトタイプや本歯をこだわることで、噛み合わせなどの機能面だけでなく、ほうれい線や鼻下の膨らみなどの審美面はで調整することが可能となります。
このような厳密な設計を経て、本歯があなたの体の一部になります
いかがだったでしょうか?当院では、このような様々な設計を一つ一つ行う事で、世界に一つだけの花ならぬ『世界に一つだけの歯』を作り上げていきます。これにより機能的で審美的、それでいて長持ち出来る歯になっていくのです。本歯を作るという事はとても大変な事なのです。
インプラントの設計⇒仮歯の設計⇒パソコン上での歯の設計⇒プロトタイプの設計⇒本歯の設計といくつかの設計を通して、あなたにあった理想的な形態に生まれ変わっていきます。しかも、入れ歯とは違いこれだけの工程を経ても、つけ外しでなく、口腔内に装着したままとなります。つまり、手術前から術後、本歯セットまで咬めない時期というのが存在しません。ですので、これだけの工程を経て製作致しますが、それだけのストレスを患者さんに感じさせないプロセスというものがオールオン4にはあります。
また、本歯の設計は当院だけではなく患者さんと協力して設計していく形になります。わたしたちの考える機能性と審美性が患者さんの持つ整容観と合致するのがゴールとなります。なので、顔のはりがでたり、本歯を装着していても違和感の少ない設計となったり、笑顔が素敵になったりするのです。
世界に一つだけのオーダーメイドの理想に近い歯にしたい、当院でしたら、そのお望みのお手伝いが出来るかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。今回は「オールオン4 当院における設計の こだわり」をテーマに記事を書きました。歯の深刻な悩みをお持ちの方に向けて記事を書いていますが、疑問は解決しましたでしょうか? 皆様のインプラントに関する不安を少しでも軽減できる情報を提供できればと考えています。
本ブログは「双方向」であることをモットーとしています。本ブログ読者からのインプラント、All-on-4、ザイゴマインプラントに関するフィードバックやご質問に、できる限り筆者が記事を書いたり、個別返答でお悩みにお答えすることができます。
※本ブログはインプラント・ザイゴマインプラント専門のブログとなりますのでご了承ください。
著者紹介
大多和 徳人
おおたわ歯科医院
オールオン4 ザイゴマクリニック
院長 歯学博士
専門分野
重度歯周病 / ザイゴマインプラント
学歴・職歴
- 九州大学歯学部歯学科卒業
- 九州大学大学院顔面口腔外科卒
- 九州大学病院デンタルマキシロフェイシャルセンター勤務
- 大分岡病院顎顔面外科マキシロフェイシャルユニット勤務
- ALLON4 ZYGOMA CLINIC開設
所属学会
- 日本口腔外科学会所属 認定医
- 顎顔面インプラント学会所属
- ICOI(国際インプラント学会)所属 認定医
- All-on-4 ザイゴマインプラント協会 理事
- Study Group of the Edentulous Solutions 理事
- ZAGA CENTERS所属 認定専門医
専門
- オールオンフォーザイゴマインプラント
- 九州大学総長賞受賞
(テーマ: 3Dプリンターによる三次元骨再生) - 博士号取得
(テーマ: カスタムメードチタンメッシュでの骨再生) - 国際特許取得
(主題: All-on-4 のための三次元スキャンボディの開発)
※詳しいご相談はこちらのフォームから承っております。