オールオン4 と骨の結合( インテグレーション )
オールオン4 : 1日で全ての歯が入る素晴らしい治療です。歯がない人、歯がボロボロな人でも関係なく、手術当日に全ての歯を再構築する事が可能となります。しかし、「手術後に炎症が起きてぐらついた」や「感染したインプラントが取れた」等の話を聞いてインプラントに抵抗がある方もいると思います。オールオン4は通常のインプラント治療よりも感染に強いため上記のことは起こりにくいです。ただ、そのオールオン4の 寿命 をより長くする工夫も必要です。オールオン4の感染予防で重要なのは、インプラントと骨の化学的な結合であるオッセオ インテグレーション の確立です。
インプラントと骨を インテグレーション せる為には、埋入する場所の骨量や骨質等の局所的な条件だけでなく、体質・常用薬剤・栄養状態・生活習慣等の全身的な条件、インプラントの形態や表面性状等のインプラントに関する条件、他、血液循環の状態、感染の有無、手術の状況、埋入後の清掃の方法等も考慮する必要があります。また骨とインプラントが化学的に結合する期間も人によって個人差があります。当院ではインテグレーションを成功させる為に、そのようなポイントの一つ一つを意識してインプラント治療を行っています。この積み重ねこそが患者さんの骨とインプラントのインテグレーションを成功させる秘訣になります。今回はそうした工夫について記載していきます。
局所的な条件:骨の量と質
「骨の量」はインテグレーションさせる上で必須の項目です。デンタルインプラントとは骨にねじ込みます。それ故に、支える為の骨がないとデンタルインプラント自体を埋入ができません。したがって、「骨の量」は必須の項目となります。ここまでは、なんとなくイメージが付きやすいとは思います。しかし、「骨の質」というと理解が難しいかもしれません。骨の質、いわゆる骨質はその患者さんが持たれている骨自体の性質を指します。主に、硬いのか柔らかいかとなります。骨の密度が詰まっている(骨密度が高い)と骨が硬いです。また、骨の密度が粗造だ(骨密度が低い)と骨が柔らかいです。この骨質は患者さんによって様々で、骨が硬い方も入れば柔らかい方もいます。骨が柔らかく脆い方はインプラントと物理的な結合が非常に難しく、普通に埋入するだけではインテグレーションしません。また、骨密度が高すぎる場合も注意が必要です。骨密度が高すぎると、骨が硬すぎるため、インプラント埋入時に骨にひびが入ったり、インプラント自体が割れたりしてうまくいかない事があります。事前の十分な情報収集及びプランニングが必要です。また、術中のシチュエーションに合わせた適切な治療計画の選択や対応も肝要となります。
全身的な条件:体質や常用薬剤、栄養状態や生活習慣等
全身的な条件もインテグレーションに大きく影響します。様々なものがありますが、その一つが体質です。傷の治りの早い方もいれば傷の治りの遅い方もいます。当然傷の治りの早い方は治癒も早く、骨とインプラントの結合もうまくいく可能性が高くなります。一般的に若い患者さん方がインプラントやオールオン4を確立できる可能性は高くなります。しかし、ご高齢の方でも傷の治りの早い方もいらっしゃいますので、一概に年齢という括りでは測る事はできません。
他の条件として挙げられるものに常用薬剤や栄養状態、生活習慣などがあります。すでに骨粗鬆症がある方はそもそも骨の密度が少なくもろい状態なので、インテグレーションしにくい可能性があります。骨粗鬆症がある場合、骨を強くするビスホスホネート製剤等の薬を内服している場合があります。薬の影響で骨が硬くなりすぎるとインプラントや骨の感染に繋がってしまう可能性もあります。
糖尿病をお持ちの方もインテグレーションを困難にする可能性があります。糖尿病を患っていると、血糖値が上昇し骨を新しく形成する力が落ちます。その結果、骨質が悪くなります。それだけでなく、白血球などの免疫細胞の機能が低下し感染に弱い状態になります。すると手術後の治癒が遅れてしまう可能性も高くなります。
自己免疫疾患等のご病気をお持ちの方もインテグレーションが難しくなる可能性があります。自己免疫疾患自体がインテグレーションを難しくしている訳ではなく、自己免疫を抑える為のステロイド剤等の常用薬を使用しているからです。自己免疫が低下することで感染しやすい状態となるのでインプラントやオールオン4の確立を難しくしてしまう可能性があります。
生活習慣も重要です。特に関連性が高いものがタバコです。タバコはどうしても、血流を悪くしたり感染を惹起しやすくしたりします。良好なインテグレーションを得る為にはこの様なポイントもよく考慮しておかなければなりません。また、栄養状態も当然関係してきます。タンパク質、ビタミン、ミネラル、脂質などをバランスよく摂取できている方はインプラントやオールオン4を確立できるポテンシャルが高くなります。当院では食事指導やビタミンC点滴等を行い、インテグレーションの可能性を上げるサポートを行っています。
インプラントに関する条件について
一般的に使用されるデンタルインプラントの材質は純チタンやチタン合金であることが多いです。また、その形状もシリンダー型かコニカル型(スパイラル型)に収束しつつあります。また、デンタルインプラントは顎骨に埋入されますが、その時に接触するデンタルインプラントの表面性状も重要となります。また、その内部構造の嵌合が六角形なのか八角形なのか。さらには、嵌合が外向きのエクスターナル、内向きのインターナルなのか。中ネジの太さも違います。それだけでなく、インプラントに結合される角度変更アバットメントも多種多様となっており、そのシステムはメーカーによって大きく異なります。
当院では一本のノーマルインプラントからオールオン4、ザイゴマインプラントまでの治療を受けることが可能です。したがって、当院で使用しているインプラントは非常にこだわりを持った形態や形状をしているものを選択しています。その中でも最大の特徴は、ノーマルインプラントからザイゴマインプラントまでを一つのシステムで網羅している点です。これは患者さんのライフスタイルとともに目まぐるしく変化する口腔内にシンプルで的確に対応できるようになっています。
そのインプラントの形状は円錐状の形態となっており、セルフタッピングと呼ばれる外形にてインプラント自体で骨を切削しながら埋め込むことができ、その削った骨も余すことなく利用する優れた構造をしています。また表面には骨置換能力の高い β型リン酸三カルシウム( β-TCP )を添加しています。この形状と性状によって、骨とインプラントの接合が物理的にも化学的にも成功するようになります。長期的な視点でのインプラントやオールオン4の確立という意味では非常に重要なポイントとなります。
部分的な条件(顎骨やその血流の状態、術後感染など)について
他にも様々なものがインプラントと骨の結合に関係してきます、例えば、顎骨の状態やその骨の中を細かく走る血液の状態です。血液というものは体の中を常に循環して色々な臓器に酸素等の栄養を届けています。骨に関しても同様です。顎骨は表面の硬い骨:皮質骨と内部の柔らかい骨:海綿骨に分かれます。海綿骨がほどよく硬い場合は血流の状態もよく、インテグレーションの完成も早いです。しかしながら、海綿骨が硬すぎたり柔らかすぎたりすると、骨の状態と血流の状態がインプラントの物理的な結合と化学的な結合のバランスが崩れるため、インテグレーションの阻害要因となります。このような場合は術者がそれを考慮して、インプラント埋入のための適切なドリリングや適切なインプラント体の選択をしなければなりません。
また、術後の感染に配慮した操作も重要な条件の一つです。手術時に感染に配慮した操作を行う事でこうした事を防止できます。例えば、滅菌操作の徹底、予防的な抗生剤の投与、術後の抗生剤の内服、仮歯の破折からの術後感染予防などがあります。特に、仮歯については少し割れる程度は痛みはほとんどありません。この状態でさらに食事を続けるとインプラントにダメージが入る場合があります。すると、骨とインプラントの結合がうまくいかなくなり、インテグレーションが失われてしまうこともあります。仮歯の時は歯科医師の指示通り、できるだけ硬いものは食べず、割れてしまった場合は早急に仮歯の修理が重要となってきます。
インテグレーション の期間について
インテグレーションにおいて避けては通れない問題が期間の問題です。デンタルインプラントと骨の化学的な結合には、最低でも2~3か月はかかると言われています。ちなみにオールオン4の場合は、併行して十分な物理的な結合を発生させますが、徐々に目減りしていきます。には、手術日に十分に獲得されますが、その為、その間は最低でも仮歯でいて頂く必要があり強い負荷をかけるとうまくインテグレーションしなくなる可能性が潜んでいます。また骨が出来るまでというのは、ずっと接合が強くなるというわけではなく、4週間後等、一時的に弱くなってしまう時期というも存在します。当院はそのような時期も見越して治療計画を立てていきます。
図6をみてみましょう。上記は(一社)ザイゴマインプラント協会にて発表されているインプラントと骨の結合のチャートです。青点線がインプラントを即時荷重にて物理的に結合をさせたものです。青点線は術後すぐは高い数値を示していますが、時間の経過とともに失われていきます。逆に緑点線はインプラントのチタンと骨の化学的な結合です。術後に振動が加わらないことが条件とはなりますが、時間の経過とともに上昇しているのがわかるとおもいます。すなわち、ある程度しっかりしたトルクでインプラントを顎骨に埋入することができれば、インプラントが完成するのは、2か月後以降となります。逆に、一番注意しなければならないのは、術後4週にあたる1か月後となります。
全ては長持ちするオールオン4の為に
いかがだったでしたか?インプラントと骨をインテグレーションさせるという事は様々な要素を考慮しなければなりません。オッセオインテグレーションの原理自体は、故ブローネマルク博士により発見されました。これは、「Osseo – 骨の」+「integration – 結合」の意味を合わせ、オッセオインテグレーション(Osseointegration)と名付けられました。今の歯科界ではデンタルインプラント治療は全国の歯科医院にて通常の治療として実施されています。この化学的な現象の一番のポイントは、インプラントの主成分であるチタンと人間の骨が間に何かをはさむことなく「直接」結合することです。これは奇跡と呼べるような化学的な現象です。そんな奇跡を現実のものにする為の努力をする事が私達の仕事です。他院でインプラントがくっつかなかったという訴えで来院される患者さんもいらっしゃいますが、上記にあげた点にエラーが出ている可能性があります。
当院では、そのような原因の究明を行い様々な視点からインプラントと骨の結合について追及していきます。一つ一つの工程をしっかりと踏んで、エラーがない事を確認して次の工程に進む、当たり前の事だと思いますが、この辺りを徹底する事がインテグレーションへの何よりの近道なのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。今回は「オールオン4 と骨の結合( インテグレーション )」をテーマに記事を書きました。歯の深刻な悩みをお持ちの方に向けて記事を書いていますが、疑問は解決しましたでしょうか? 皆様のインプラントに関する不安を少しでも軽減できる情報を提供できればと考えています。
本ブログは「双方向」であることをモットーとしています。本ブログ読者からのインプラント、All-on-4、ザイゴマインプラントに関するフィードバックやご質問に、できる限り筆者が記事を書いたり、個別返答でお悩みにお答えすることができます。
※本ブログはインプラント・ザイゴマインプラント専門のブログとなりますのでご了承ください。
著者紹介
大多和 徳人
おおたわ歯科医院
オールオン4 ザイゴマクリニック
院長 歯学博士
専門分野
重度歯周病 / ザイゴマインプラント
学歴・職歴
- 九州大学歯学部歯学科卒業
- 九州大学大学院顔面口腔外科卒
- 九州大学病院デンタルマキシロフェイシャルセンター勤務
- 大分岡病院顎顔面外科マキシロフェイシャルユニット勤務
- ALLON4 ZYGOMA CLINIC開設
所属学会
- 日本口腔外科学会所属 認定医
- 顎顔面インプラント学会所属
- ICOI(国際インプラント学会)所属 認定医
- All-on-4 ザイゴマインプラント協会 理事
- Study Group of the Edentulous Solutions 理事
- ZAGA CENTERS所属 認定専門医
専門
- オールオンフォーザイゴマインプラント
- 九州大学総長賞受賞
(テーマ: 3Dプリンターによる三次元骨再生) - 博士号取得
(テーマ: カスタムメードチタンメッシュでの骨再生) - 国際特許取得
(主題: All-on-4 のための三次元スキャンボディの開発)
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