ザイゴマインプラント の リスク

ザイゴマインプラント の リスク

監修:オールオン4 ザイゴマクリニック

院長 歯学博士 大多和 徳人

皆様は「ザイゴマインプラント」についてご存じでしょうか?「ザイゴマ」と聞かれて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。 ザイゴマインプラント はオールオン4治療を拡張できる優れたインプラント手術です。当院で手術をされた方はその安全性やメリットについて、ご理解頂けているかと思います。しかしザイゴマインプラントについてご存知ない方、長さや埋入位置の話を聞かれて抵抗のある方、歯科医師やメディア(YouTube, SNS)から恐い情報や リスク を聞かれて恐怖心をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

ザイゴマインプラントはインプラント自体が長く術式も複雑となるため、その操作がとても難しくなります。したがって、ノーマルインプラントの技術や術式は当然として、さらに顎顔面領域の様々な知識や経験が求められます。しかしながら、ザイゴマインプラントは知識と技術が伴った経験豊富な歯科医師が治療に携わった場合、とても有益な治療となります。患者さんにとっても治療の選択肢が増え、少ない回数で治療を終える事も可能となります。また術後のインプラントの生存率も高い治療です。

ザイゴマインプラントは当院における治療成績もよく、もっと多くの方に知って頂きたい治療となります。そこで本稿では、ザイゴマインプラントの世界的な報告を踏まえて、どのようなリスクがあるのか、また当院における実績や術後の経過等について記載していきたいと思います。下記の記述や図に関しては、Saj Jivraj 氏が総括した Graftless Solutions for the Edentulous Patient (以下、GSEP)から一部抜粋をしています。

上顎洞炎関連の合併症のリスク

図1:上顎洞内に肥厚した鼻腔粘膜(赤丸)

ザイゴマインプラントを埋入した際の上顎洞炎関連の合併症(頭痛、鼻炎、前鼻漏、後鼻漏)の報告は、ザイゴマインプラントの合併症の中でも数多くされています。海外の文献ではザイゴマインプラントを施術した患者の11%の症例で発症すると報告している文献もあるようです。

ザイゴマインプラントは上顎骨から頬骨にかけて埋入しますが、その過程でどうしても上顎洞の内部もしくは側方を経由しなければなりません。したがって、上顎洞を内包しているシュナイダー膜を穿孔してしまうリスクがあります。シュナイダー膜を穿孔した場合、口腔内と上顎洞内が一部交通します。すると、上顎洞炎のリスクが上昇します。また、ザイゴマインプラントの埋入操作は術野が狭い上、インプラント自体の長さが長く、視野の確保が困難です。それ故、手指感覚での操作を余儀なくされます。また、歯科医師のほとんどが3DモデルやCT画像によるシミュレーションソフトを使って、埋入位置や角度をシミュレーションしますが、ザイゴマインプラントとなると通常のインプラントよりも深い部位になるため、通常のインプラントガイドでは誤差が生じる場合もあります。すると、ザイゴマインプラントの埋入方向に誤差が生じ、上顎洞炎のリスクを上げてしまいます。

では当院ではどのような対策を行っているのでしょうか。当院はCT画像を分析し、上顎洞の形態によって難易度を把握します。これはZAGA分類と呼ばれ、歯槽骨と上顎洞、頬骨の解剖学的形状をタイプごとに分類します。一般社団法人ザイゴマインプラント協会では、このZAGA分類を独自に難易度分類しており、その難易度に応じたザイゴマインプラントの埋入シミュレーションを行いますので、安全でスムーズな手術が可能となっています。また、手術中にシュナイダー膜を破らないように愛護的に処置を行います。この時に特殊な術式や器具を用いるなど専門的な対策をしております。

上記工夫もあり、当院では術直後から上顎洞炎の症状を認めた方は一人もいません。しかしながら、術後に一定の年月が経過すると上顎洞炎の症状を認める方も少数ですがいらっしゃいます。それは、上顎洞とザイゴマインプラントの位置関係、菲薄な上顎骨、上顎洞と口腔内が繋がっている事等の解剖学的な要因、喫煙、過度な口腔内清掃、鼻を強くかんで圧抜きする等の生活習慣に起因するもの等様々です。当院でも、数百症例のザイゴマインプラントの患者様を調べたところ、その内2%ほどの症例にて術後に上顎洞炎の症状を認めていました。しかし、当院の場合、術後に上顎洞炎の症状を発症した場合でも特殊な消炎方法にて対応しており、術後の上顎洞炎の症状を抑えております。

頬に瘻孔が出来るリスク

瘻孔
図2:頬部に認める瘻孔(赤丸)※GSEPより引用

海外の文献によると、ザイゴマインプラント先端部が感染し、頬骨周囲に膿瘍を形成し、頬部に瘻孔(感染した事により体の防御反応で膿の通り道)を認める事があるようです。当院では、2017年からこの手術に携わってきましたが、そういった患者様は一人もいません。これには様々な理由が考えられます。例えば当院では、感染に強くて微細な細菌の範囲の広がりを防ぐ構造のインプラント体を使用しております。インプラントの構造によって術後の症状が大きく違うという事はあまり知られておりません。また、準備や術式も異なります。当院では、事前にCT撮影を行いシミュレーションソフトを使用して、埋入位置を事前に決定します。この時に、頬骨の位置や骨質や厚み、上顎洞との位置関係を網羅して手術に臨みます。さらに、ザイゴマインプラントの術式は、全症例 「EZ4 concept」で行います。これは、頬骨(Zygomatic bone)を外側からアプローチするExtra-maxillo Zygomatic all-on-4 コンセプトとなります。その上で感染予防も行って手術に臨みますので、瘻孔を認めたり、頬部膿瘍を発症していない事に繋がっていると考えられます。

ザイゴマインプラント 周囲炎のリスク

インプラント周囲炎
図3:ザイゴマインプラント周囲炎

インプラント周囲炎を発症するという報告も一部の海外の文献ではあります。しかしながら、ザイゴマインプラントの場合、頬骨と物理的・化学的に結合しますが、感染源となりうる細菌は頬骨・上顎洞周囲のものとなります。これは口腔内の細菌とは異なるものとされています。したがって、文献によっては、インプラント周囲炎ではなく、ザイゴマインプラント周囲炎と呼ぶ場合もあるようです。当院で術後の注意事項を遵守されて、喫煙などの原因となるような行動がない方で発症したザイゴマインプラント周囲炎というのは、基本的には皆無です。しかし、ザイゴマインプラントが骨と接合する前に仮歯割れ、食いしばり等の強い力が原因でザイゴマインプラント周囲炎を発症した方は残念ながらいらっしゃいます。ザイゴマインプラントは基本的に感染に強い構造と考えられており、何かしらの強い原因がない限りはそういった事にはならないようです。また当院ではそのようなトラブルとならないように常に最新の注意を払って処置に携わっております。

眼の損傷のリスク

目の損傷
図4:眼とザイゴマインプラントが近接 ※GSEPより引用

ザイゴマインプラントはその長さと埋入位置から眼を損傷させるリスクがあります。基本的には頬骨と眼の位置関係は離れた位置にあり、正しい操作を行っていればまず損傷させる事はありません。しかし、頬骨の埋入スペースがあまりない、頬骨の位置が特殊な位置にあり眼との距離が近い、骨質が弱い等の問題がある場合、埋入方向や位置を変える必要が出てきます。その場合、眼を損傷させてしまうリスクが上がります。しかし、当院ではCTによる精密なシミュレーション、しっかりとした視野の確保、手指間隔による適切なトラブルシューティングを行う事が出来る豊富な治療実績、さらには顎顔面外傷における豊富な手術経験が眼の損傷を防いでおります。その為、当院では今まで患者さんの眼を損傷させた事は一度もありません。しかし、こういったリスクが一応あるという事は手術を受けられる方は知っておくべき事なのかもしれません。

リスク がないとは言えませんが・・

ローリスクハイリターン
図5:ローリスクハイリターン

やはりザイゴマインプラントを行う以上、上記の様なリスクが常につきまとうのは事実です。しかし、それらのリスクを差し引いてもザイゴマインプラントはそのリスクに見合った価値のある手術だと個人的には感じています。上顎の骨がない場合でも即時埋入可能で、即時荷重(歯を当日に入れる事)も可能です。歯がない方、虫歯と歯周病が酷い方、矯正治療の難しい方、ブリッジ治療が出来ない方、入れ歯が合わない方、入れ歯をしたくない方、ノーマルインプラント手術を断られた方、食事が痛くて出来ない方、こういった悩みをお持ちの方でも一筋の希望になりうるインプラント、それがザイゴマインプラントだと感じています。

これから、ザイゴマインプラントをお考えの方は、リスクという側面を正しく認識して頂き、その上で治療に望まれることをお勧め致します。ザイゴマインプラントは正しい埋入操作やその術式が重要で、マスターしている歯科医師はごく一握りとなります。わたし、大多和徳人は一般社団法人ザイゴマインプラント協会を通してザイゴマインプラントの術式や術後の経過を共有し、日本全国の歯科医師と共に学んでいます。それだけでなく、実はザイゴマインプラント治療を成功に導くためには、禁煙などの患者さんのご協力も必要不可欠であることはあまり知られていません。

正しい術式と患者さんの協力、どちらかが欠けていれば上記のようなリスクにつながる可能性は少なからずあります。術者と歯科医院のスタッフ、患者さんがスクラムを組んでザイゴマインプラントの成功につなげていく事が大事なのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。今回は「ザイゴマインプラント の リスク」をテーマに記事を書きました。歯の深刻な悩みをお持ちの方に向けて記事を書いていますが、疑問は解決しましたでしょうか? 皆様のインプラントに関する不安を少しでも軽減できる情報を提供できればと考えています。

本ブログは「双方向」であることをモットーとしています。本ブログ読者からのインプラント、All-on-4、ザイゴマインプラントに関するフィードバックやご質問に、できる限り筆者が記事を書いたり、個別返答でお悩みにお答えすることができます。
※本ブログはインプラント・ザイゴマインプラント専門のブログとなりますのでご了承ください。

著者紹介

大多和 徳人

おおたわ歯科医院

オールオン4 ザイゴマクリニック

院長 歯学博士
専門分野

重度歯周病 / ザイゴマインプラント

学歴・職歴

  • 九州大学歯学部歯学科卒業
  • 九州大学大学院顔面口腔外科卒
  • 九州大学病院デンタルマキシロフェイシャルセンター勤務
  • 大分岡病院顎顔面外科マキシロフェイシャルユニット勤務
  • ALLON4 ZYGOMA CLINIC開設

所属学会

  • 日本口腔外科学会所属 認定医
  • 顎顔面インプラント学会所属
  • ICOI(国際インプラント学会)所属 認定医
  • All-on-4 ザイゴマインプラント協会 理事
  • Study Group of the Edentulous Solutions 理事
  • ZAGA CENTERS所属 認定専門医

専門

  • オールオンフォーザイゴマインプラント
  • 九州大学総長賞受賞
    (テーマ: 3Dプリンターによる三次元骨再生)
  • 博士号取得
    (テーマ: カスタムメードチタンメッシュでの骨再生)
  • 国際特許取得
    (主題: All-on-4 のための三次元スキャンボディの開発)

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