ザイゴマインプラント をお考えの方へ。術者としてお伝えしたい事
タグ:ザイゴマインプラント, プロビジョナルレストレーション, 即時荷重, 喫煙, 基礎疾患, 骨が菲薄
ザイゴマインプラント はこれまで不可能といわれてきた症例を可能にすることが出来る素晴らしい手術です。しかしながら、注意点も必要です。
これまで、ノーマルインプラントでは困難だった上顎骨が異常吸収したような症例でも適応が可能です。さらに当院の手術の場合、即日で仮歯を入れる事まで可能としています。したがって、骨を作る為に入れ歯を装着する期間というものが基本的にはありません。
このように一見万能に見える手術ですが・・
歯科医師として患者さんに出来るだけ理想通りの処置を行いたいという強い思いはありますが、反面、難しい一面もあります。
今回は、そちらの様々な理由に関して記載の上、術者として手術を希望される方々にどのような事をお伝えしたいのかを記載していきます。
喫煙が手術と術後を困難なものにする
喫煙は手術をどうしても難しいものにします。
手術と相性の悪い生活習慣といった方が良いのかもしれません。その理由としては、喫煙が下記に挙げるような影響を及ぼすからです。
・血管内皮障害を誘発する
・血栓形成を誘発する
・呼吸機能低下を誘発する
・呼吸器疾患を誘発する
・喀痰を増加させる
・気道狭窄する
・疼痛閾値を低下させる
・治癒遅延を誘発する
・炎症反応の亢進
・骨密度の低下
・・・etc
上記のように、思いつくだけでも、これだけの問題点があります。
ザイゴマインプラント手術においても悪影響を及ぼしてしまう可能性が残念ながらあります。手術中は痛みが増しやすくなりますし、苦しくなる可能性もあります、むせやすくもなりますし、出血もしやすくなります。インプラント埋入自体が困難になる可能性もあります。当然、手術時間は長くなりますし、手術難易度も上がります。また静脈内鎮静法においては安全の為に、覚醒に近い状態で手術を行わなければしなければならない可能性があります。本来ならぐっすり眠ったままで手術を受けられたはずなのに、禁煙できなかったことが理由でやや覚まし気味でオペに臨まなければいけないこともあります。
術後に関しても、傷口が開きやすくなったり、感染のリスクが上がったり、上顎洞炎のリスクを上げたり、息苦しさを誘発したり、飲み込みが増える事による吐き気の誘発を引き起こしたり、腫れを助長したり、治癒が遅延する可能性もあります。このような事が起こってしまうと仮歯から本歯までの道のりが長くなる可能性があります。また当院は現在では、日本で最高の症例数を誇っています。そして、そのデータを分析しています。それによると、上顎洞炎の誘発、インプラント周囲炎のリスク等も喫煙をされていない方より遥かに高いことが示されています。
以上より歯科医師としてお伝えしたい事は、ザイゴマインプラント手術を受ける場合、最低でも治療が落ち着くまでは喫煙は控えて欲しいと思っております。
一服が至福の一時だったり、喫煙者間の会話を盛り上げる大切なものだったり、人生にやすらぎを与えてくれる嗜好品であるかとは思います。しかし、ザイゴマインプラント手術との相性が良くないことは科学的な事実です。
仮歯(プロビジョナルレストレーション)はあくまで仮歯で限界がある
当院のオールオン4ザイゴマインプラント手術は基本的に1日で歯が入る手術です。しかし、その日にはいる歯はあくまで、仮歯(プロビジョナルレストレーション)であり、決して最終補綴物となる本歯と変わらないものが入るという訳ではありません。
したがって、材質的な強度、審美性、舌感や発音、噛み合わせという点でどうしても本歯と比較して劣ります。オールオン4やザイゴマインプラントは術後3ヶ月くらいをもって、歯ぐきや粘膜が引き締まり、症状が安定します。そこから、引き締まった歯ぐきや粘膜に合わせて型取りをします。それまでは樹脂でできた仮歯で様子をみていくのが通常の流れとなります。
噛み合わせに関しては基本的には手術中に採得します。術中の状況が静脈内鎮静法と局所麻酔の影響で、口周りが痺れて、うたた寝したような状態で噛み合わせのデータをとります。これは一般的な診療室とのシチュエーションとは違いますので、噛み合わせの採得が困難なものとなります。
また必要な部位に骨がない場合はどうしてもそこを避けて骨がある部位にインプラントを埋入する必要があります。これによりインプラントから立ち上がる上部構造をねじ止めするためのアクセスホールの位置が決まってしまいます。これも実は仮歯の形態、術後の顔貌の形態に大きく影響してしまいます。
仮歯セット後に食べる物に関しても仮歯割れの危険性、インプラントへのダメージを考慮し制限されています。歯ごたえのある物、十分な咀嚼が必要なものに対しては、制限の対象となってしまいます。
今まで歯があった方に特に多いのですが、仮歯自体の違和感というものは強いかもしれません。一時的に装着する仮歯は、天然歯にはない形態となりますので、今までなかった場所に仮歯の一部がくる場合もあります。残念ながら、この違和感は慣れて頂くしかありません。しかし、ブリッジや部分入れ歯の治療等を受けられた方ならご経験があるかもしれませんが、最初は異物という認識があっても次第に自身の体の一部のような感覚になり、気付いたらブリッジや部分入れ歯を入れていた事を失念するぐらい違和感がなくなることが多いです。
歯科医師としてお伝えしたい事は、仮歯はあくまで仮歯で、天然の歯の様に硬く違和感のない形状ではないという事実です。
基礎疾患をお持ちの方(糖尿病や高血圧等)の場合
オールオン4、特にザイゴマインプラントをされる方の場合、半数の方が何かしらの基礎疾患を持っています。そのような場合でも、当院では可能な限り、手術につながるようお手伝いをさせて頂きます。
当院には麻酔科医もおりますし、可能な対応はさせて頂きます。しかし、それでも身体が手術についていけない事が予測されるケース、手術をする事で期待される効果をリスクが明らかに上回るケース、ご紹介先の医科の先生からのストップがかかるケース、こういったものに関しても当院でも対応は不可能となります。また医科病院の受診の指示を出しても、受診頂けずリスクが不明なケース。こういった場合は、受診頂き結果が出るまではやむなく手術を延期させて頂く可能性が出てきます。
また、オペ自体が中止や延期等ではなくとも基礎疾患をお持ちの方は費用が上がってしまう可能性(ノーマルインプラントのロストや感染のリスクが高く、ザイゴマインプラントでないと対応が困難となる等)や治療期間がどうしても長くなる(骨が脆弱でインプラントのトルクが出ない等)可能性もあります。また手術時期が自身の薬の関係で決まった時期にしか出来ない(口腔内以外の癌の化学療法の場合等)可能性もあります。他には薬の服用を変更頂く可能性(骨粗しょう症の一部の薬)、一旦中止頂く可能性(生理不順の一部のお薬等)もあります。勿論、これらの薬は必ず処方医の先生に相談のもと対応していきます。
上記は専門性が高く、とても難しい話にはなりますが、もし基礎疾患をお持ちでこの手術をお考えの方には上記のような事もあるという事だけでも、頭の片隅に入れて頂ければと思います。
ザイゴマインプラントのターゲットとなる骨が菲薄だったり、特異的な形態をしている方の手術の場合
ザイゴマインプラントはこれまでの上顎骨という枠を超え、顎顔面骨である頰骨に施術します。これにより適応の幅が広がり、上顎の骨が薄い方でも手術可能となる画期的な治療です。
しかし、ごく稀に頬骨自体が過度に薄い方、頬骨の形態が特殊な方もいらっしゃいます。基礎疾患のない方でもこのような頰骨の患者さんの場合、手術の難易度が極端に上がります。歯科医師の技量にもよりますが、ザイゴマインプラントが埋入が出来ない、頰骨が骨折するなど、症例によっては予想されます。
実は基礎疾患のない一般的に健康な方の中にも極端に頰骨がない方は一定数いらっしゃいます。当院ではザイゴマインプラントを2024年末の時点で2000本ほど行ってきましたが、全症例においてザイゴマインプラントを確立してきました。
皆様にしっておいてほしいのは、ザイゴマインプラントが入る『頰骨』にも限界があることです。もし、経験値の低い歯科医師が頰骨をダメにした場合は、もしかしたら2度とその方はインプラントブリッジで歯を作ることができないかもしれません。当院では、過去に他院にてザイゴマインプラントを失敗した患者さんが来られています。わたしの全身全霊をかけてどうにかザイゴマインプラントの修復をこれまでも行ってきました。しかしながら、他院で失敗したケースのリカバリーはさらに難易度があがります。なので、他院にて「頰骨が薄い」など指摘された場合は、当院に受診していただくか、当院へ紹介状をお願いすることを推奨いたします。当院は日本全国の歯科医院からも紹介を受けておりますので安心して相談されてください。そして当院でも、頰骨が本当に薄い方の場合は、ハイリスク管理として同意書をいただいて手術に臨んでいきます。
ご相談時のCT検査である程度、判別可能ですので、もし相談に来られてCTでこのような状態を認めた場合、ハイリスクであることを説明させて頂く事があるかもしれません。
100%の即時荷重(即日、歯が入る事)を目指す事は当然ですが、絶対というものは残念ながら、ありません。ですので、このような可能性がある事はご理解頂ければと思います。
お一人お一人、違いますので・・
当院には世界中から様々な患者さんが来られます。そして来院された理由も御身体の状態もお口の中の状態も生活習慣も当然全く違います。ですので、当院では、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイド治療を実践していかなければなりません。
どんな方に対しても理想的な治療を目指してはいますが、やはり難しい場合もありますので、その場合は上記のような事を思い出して頂ければと思います。オールオン4やザイゴマインプラントは相談から始まり、オペ日が確定した時点で治療はスタートしています。術前は、禁煙をし体調を整えていただく必要があります。中には、『お父様やお母様に親孝行としてオペをしてほしい』と依頼される場合もあります。しかしながら、受けられるご本人に治療したいという意思がない場合は、やむなく治療を受けてもらうのを諦めていただく場合もあります。また、術後に必ず仮歯がきますが『仮歯の見た目が自身の好みと違う』と期待に添えられない場合もありますし、材質上割れてしまう事もございます。
本歯のステップになりましたら、理想に近い状態には少しづつ近づいていけますので、そちらを頭の片隅に入れて頂き、ご相談に来て頂ければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。今回は「ザイゴマインプラント をお考えの方へ。術者としてお伝えしたい事」をテーマに記事を書きました。歯の深刻な悩みをお持ちの方に向けて記事を書いていますが、疑問は解決しましたでしょうか? 皆様のインプラントに関する不安を少しでも軽減できる情報を提供できればと考えています。
本ブログは「双方向」であることをモットーとしています。本ブログ読者からのインプラント、All-on-4、ザイゴマインプラントに関するフィードバックやご質問に、できる限り筆者が記事を書いたり、個別返答でお悩みにお答えすることができます。
※本ブログはインプラント・ザイゴマインプラント専門のブログとなりますのでご了承ください。
著者紹介
大多和 徳人
おおたわ歯科医院
オールオン4 ザイゴマクリニック
院長 歯学博士
専門分野
重度歯周病 / ザイゴマインプラント
学歴・職歴
- 九州大学歯学部歯学科卒業
- 九州大学大学院顔面口腔外科卒
- 九州大学病院デンタルマキシロフェイシャルセンター勤務
- 大分岡病院顎顔面外科マキシロフェイシャルユニット勤務
- ALLON4 ZYGOMA CLINIC開設
所属学会
- 日本口腔外科学会所属 認定医
- 顎顔面インプラント学会所属
- ICOI(国際インプラント学会)所属 認定医
- All-on-4 ザイゴマインプラント協会 理事
- Study Group of the Edentulous Solutions 理事
- ZAGA CENTERS所属 認定専門医
専門
- オールオンフォーザイゴマインプラント
- 九州大学総長賞受賞
(テーマ: 3Dプリンターによる三次元骨再生) - 博士号取得
(テーマ: カスタムメードチタンメッシュでの骨再生) - 国際特許取得
(主題: All-on-4 のための三次元スキャンボディの開発)
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